國學院大學 科学教育方法学研究室(寺本研究室)

小学校・中学校・高等学校における「主体的・対話的で深い学び」の考え方

 

1 次期学習指導要領改訂の背景

 これからの時代は情報化やAI(人工知能)の研究が進み、コンピュータが人に代わって仕事をするようになると考えられており、変化が急速で先が予想しにくい時代になるといわれている。そのため、知識の量よりも臨機応変に対処し、問題を解決する力や新たなアイデアを出す創造性などがより一層求められるようになるといえる。つまり、次世代の教育は「知識重視」から「考え方・発想重視」へのシフトが求められているのである。

上述の背景より、次期学習指導要領では「生きる力」の理念を具体化した「資質・能力」の育成が打ち出された。資質・能力は、学習者個人の汎用的な能力(どの教科、どの日常場面でも活用できる力)として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3本柱で構成されている。そして、これまでのように知識だけに偏ることなく、この3本柱をバランスよく育成することが求められるようになる。

一方、各教科では「見方・考え方」の育成についても重点が置かれている。これは、各教科における「事象をとらえる視点」や「物事をどのように考えるか」を指す。例えば、第3学年の理科であれば、「豆電球の明るさと乾電池の数との関係(量的な見方)」「豆電球の明るさと直列、並列つなぎとの関係(関係的な見方)」の視点で考えることができるようにすることである。つまり、資質・能力は「教科等を通して身についた汎用的な力である一方、見方・考え方は「教科の学習内容の一場面を通して身につけるもの」といえる。

「資質・能力」と「見方・考え方」の関係については、各教科の内容を通して「見方・考え方」を身につけることで、それが単元全体や日常生活でも活用できる汎用的な力である「資質・能力」の育成につながる。そして次の学習では、身についた「資質・能力」によって豊かになった「見方・考え方」で臨むという往還した学びが生まれるといえる(下図参照)。

「主体的・対話的で深い学び」は、子供自らがもつ目標ではなく、家庭教育で子供を育成する目標でもない。あくまでも、教師が子供に上述のような「見方・考え方」をもたせることや「資質・能力」の育成につなげるためにある。そして、「子供自身が自らの考え方について考える」といった子供の思考を重視した授業改善の視点であり、教師が目標とする子供の学びの姿なのである。

 

2 「主体的・対話的で深い学び」とは

「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(中央教育審議会,2016:以降、「答申」とする)には、「主体的・対話的で深い学び」という教師の不断の授業改善において目標とする子供の学びの姿が示されている。

主体的な学び…学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。

 

対話的な学び…子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。

 

深い学び…習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。

しかしながら、この三つの学びの姿について示しているものの、それらを授業レベルで実現する具体的な方法については述べられていない。

そこで、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の関係を整理し、小学校・中学校・高等学校において文科省の趣旨に合わせた指導の指針を示すことが重要であると考えられる。

 

3 「アクティブ・ラーニング」を取り巻く誤解

  中央教育審議会への諮問(2014)以来、小・中・高等学校におけるアクティブ・ラーニングの指導法と称した書籍がたくさん出ている。しかしそのいくつかの指導事例は誤解による混乱を起こし問題となっている。例えば、

①小・中・高等学校と大学教育ではアクティブ・ラーニングの考え方が異なっているにもかかわらず、小・中・高等学校でも大学教育の定義を引用し「アクティブ・ラーニング=指導法の導入」として意味づけている事例、

②学習内容の深化ではなくアクティブ・ラーニング自体が目的化している事例(「○○法を使っているのでアクティブ・ラーニングになっているという授業」「子供にどこまで考えさせるのかなど、学習内容のゴールが曖昧な授業」など)、

③アクティブ・ラーニングと称しているにもかかわらず、内容は既存の指導と変わらないもの。

④学習者の考え方の発表や交流など、表現のみに重点を置いた「言語活動の充実」と変わらない事例、ICT機器を使わせるだけなど、意欲を高めるのみにとどまる事例、思考ツールの使い方を教えることに重点を置くだけのように、学習内容よりも学習者に各種スキルを身につけさせることに特化した事例などの「アクティブ・ラーニングにつながる一部の要素だけを取り上げてアクティブ・ラーニングと称している事例」もみられる。

答申では、このような最近のアクティブ・ラーニングと称する指導の中で問題となる代表的な授業(①学習活動を子供の自主性のみに委ね、学習成果につながらない「活動あって学びなし」と批判される授業、②特定の教育方法にこだわるあまり、指導の型をなぞるだけで意味のある学びにつながらない授業)に触れ、指導の先にある目的を再考するよう促している。

 

4 「主体的・対話的で深い学び」成立の要素

上述のような誤解による混乱から、最近の文部科学省から示される資料の方向性として、「アクティブ・ラーニング」から「主体的・対話的で深い学び」という表現へシフトしつつあり、より具体的な視点で示されるようになっている。しかしながら先述のように、それらを授業レベルで実現するための具体的な方法については述べられておらず、その解釈は各教員に任されており、その解釈に大きな隔たりがあるのが実態である。そこで以降では、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の三つの学びの関係性について検討し、それぞれの学びが成立する要素について述べる。

答申では「主体的・対話的で深い学び」と並列的に示されている。しかしながら、「主体的な学び」や「対話的な学び」は、学び方を示している一方で、「深い学び」は、学んだ結果や学びの質について述べていることがわかる。そこで本稿では、「主体的な学び」や「対話的な学び」を通して「深い学び」になるという関係で整理した。

関係を整理した後、「主体的な学び」「対話的な学び」になるための条件は何か検討する必要がある。そこで、次に教科や授業内容、指導方法に依存しない「要素」という形で授業改善のための具体的な指導の視点を整理した「主体的・対話的で深い学び」の学習モデル(寺本ら,2016を改)を示す。

このモデルでは以前の学習者の姿から、「主体的・対話的で深い学び」を意識した授業によって、新しい学習者の姿になることととらえている。また、先述のように主体的な学び、対話的な学びが成立することが結果的に深い学びの姿につながっている。ここでの新しい学習者の姿とは、以前は知らなかった・できなかったことが、わかるようになった、できるようになった(例えば、狭い知識から広い知識、浅い知識から深い知識、グラフの見方がわからなかったのがわかるようになった、物事を見る視点が増えた等)や、以前は曖昧だったことが明確になる(曖昧な知識から確かな知識へ)、以前は自信が無かったものが自信をもつようになる等、様々なものがある。

主体的な学びと対話的な学びを往還している矢印は、個人を基盤として主体的な学びが成立し、個々が成長することで、集団を基盤とする対話的な学びに発展していく流れと、対話的な学びで学んだことが主体的な学びに作用する(例えば、はじめは曖昧だった自分の考えが友達の意見を聞いたことで、明確化した)流れを示しており、相互作用的に働いていることを示している。

(1)「主体的な学び」が成立する四つの要素

主体的な学びには「自分自身で判断し行動できる」ことが重要である。自分自身で行動するためには、まずは自分自身が「問題意識」をもっていることが必要である。自分自身の問題意識をもってはじめて、追究する課題が明確(課題発見)になるといえ、すべてのスタートとなるといえる。しかし、問題意識をもっているだけではその先の解決にはつながらない。なぜならば、自分自身で判断し行動する際に必要な「知識・技能」や、ものの解釈や認識のしかたである「とらえ方」や、考える方法や状況に対する反応のしかたである「考え方」も必要だからである。

このように、自分自身で判断し問題を解決するにあたって「問題意識」「知識・技能」「とらえ方・考え方」が必要であり、この三つの要素で解決に向けて行動することは可能となる。しかしながら、時には自分自身の考え方や行動が間違っている場合もある。その場合、自分自身で「自分の考え方や行動が間違っていないか」「間違っていた場合、どのように改善するか」という、自分の判断や行動が正しいかどうかを考えたり、方針転換をしたりする必要が出てくる。そのためこの三つの要素に加え、自分自身の考えや行動を見直したり、その後の計画を立てたりする「メタ認知」の要素が必要になる。したがって、「主体的な学び」が成立する条件として、「問題意識」「知識・技能」「とらえ方・考え方」「メタ認知」の四つの要素が一部に偏ることなくバランス良く必要である。

(2)「対話的な学び」が成立する三つの要素

対話的な学びには、「新たな知識や考え方の共有や創造をする」ことが重要である。対話を通して行動するためには、まずは集団としての「問題意識」を共有していることが必要である。これは主体的な学び同様、集団としての問題意識を共有してはじめて、集団で追究する方向性である課題が明確になるといえ、すべてのスタートとなるといえる。また集団は、様々な意見をもつ個人の集まりである。集団の異なる意見から最適解を選択する判断をするためには、意見が出し合える人間関係づくりや、誰もが納得できる合意点や妥協点を見つけるために意見を整理・調整できる「合意形成能力」をもっていることが求められるといえる。さらに、集団の異なる意見から最適解を選択する判断をする際には、他者の意見の問題点を指摘したり改善点を提案したりする「批判的思考」ができることも重要である。したがって、「対話的な学び」が成立する条件として、「問題意識」「合意形成能力」「批判的思考」の三つの要素が一部に偏ることなくバランス良く必要である。

 

 

 

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